■留意点A:雑草が混じっていてもいいかどうか?

「よくわかる芝生管理」は除草剤の使用を前提にしています。自治体の方針や、ご家庭で芝生を育てる個人個人の考え方により、除草剤などの農薬を使用しない場合もありますので、芝生管理の基本姿勢について説明します。

日本芝草学会が発表してきた文献からは、雑草に関して二つのスタンスを読み取ることができます。ながく都市公園の芝生を追いかけてきた私は、現在の公園の芝生管理は、この二つのスタンスで、考え方と手法が大きく異なることを実感しています。


1.二つのスタンス

一つは北村文雄先生が説明された「単一種で構成された均整のとれた眺めて美しい芝生」を目指すスタンス。一つは亀山章先生が提唱された「芝生に適度に雑草が入り混んだ」状態を是とするスタンスです。

都市公園の植物管理では長く、「生垣は断面が四角で綺麗に剪定されている、芝生に雑草は生えていないもの」といったレベルの品質を良しとする時代がありました。これは、前者の考え方「単一種で構成された均整のとれた眺めて美しい芝生」と同様の方向性と言えます。

一方、近年は、「ここ、ほんとに芝生?」というように雑草が目立つ芝地も増えてきました。これは、予算面で管理が追い付いていない場合や、自治体側の担当者の理解不足といったことが作用している場合もあるでしょうが、生物多様性の観点から、あえて後者の「適度に雑草が入り混んだ」状態を管理方針としている場合も観られます。

私が公園の管理に携わり始めた1980年代はまだ、前者の傾向が優勢でした。しかし、ほどなくバブル崩壊を経て官側の財政制約(予算の切り詰め)が始まりまり、状況に変化が現れてきました。現在では後者の割合が増えてきたと見えます。

2.両スタンスの背景

北村先生の説明では、欧米と日本では、風土的に自然界における草原の量の違い(欧米>日本)から、日本では修景や地表面保護を主流とした「純粋で雑草のない美しい芝生」が重用されたとあります。それが日本庭園における小規模な芝生の造成と管理の手法を発展させ、やがて都市公園の管理にも引き継がれたと私は考えています。

長く財団法人公園緑地管理財団(現公園財団)で国営公園に携わってこられた飯塚克身さんは興味深い文献を整理しています。1983年から2003年までのバブル崩壊を挟む20年間における国営昭和記念公園の、芝生管理工種別施工回数及び管理経費の変遷です。

「生物多様性」は、1985年にW.G.ローゼンによって造語され、ほどなく日本の自然科学分野でも議論されるようになりました。これが、都市公園の管理に対して財政制約と合わせた圧力となり、「単一種で構成された均整のとれた眺めて美しい芝生」を「芝生に適度に雑草が入り混んだ」状態に移行させる機運が起こりました。

3.財政制約及び生物多様性への対応

ここで公園を含めた土木の世界で公共事業は「建設整備と維持管理」の二つに大別できます。財政制約への対応では両者には大きな違いがあります。前者は施工規模を縮小することで乗り切れますが、後者は管理対象規模に変化がないためそれができません。

ですから都市公園における財政制約では、「維持管理」においては、対応が自ずと「管理品質を低下させる」方向にベクトルが向きやすいと言えます。これは、私が日本芝草学会2000年秋季大会で発表した資料で説明しました。

更にこの気運の大きな後押しになったのが1989年に北海道北広島市のゴルフ場で発生した農薬流出事故に関連する、その後の各種の薬剤使用規制です。ここで公園の造成にしても管理にしても、国営公園は全国の都市公園の手本となってきたことに間違いはありません。

飯塚さんの文献にあるように、1989年に国営公園の芝生管理が二つのスタンスを跨いで大きく舵を切ったことで、全国の芝生管理の基本方針はこの2軸(二つのスタンス)で、あるいはその混合スタンスで進められています。

北村先生文献(p7中段以降):別画面が開きます
亀山先生文献(p51右列):別画面が開きます
飯塚元国営公園管理運営業務担当文献(p43):別画面が開きます
北海道ゴルフ場農薬問題(北広島市webから、p102):別画面が開きます
2000年芝草学会上原文献(4-(3)):別画面が開きます

4.雑草防除について

「よくわかる芝生管理」の冒頭にも書きましたが、芝生管理の基本は「しっかり肥料をやって芝刈りをきちんとする」です。芝刈りを怠らずに一定の高さでシバを管理することで、背の高くなるキク科等の雑草を抑えることができます。使われなくなり雑草が繁茂していたフィールドにオートモアを走らせただけで、元のノシバのターフを復活させた事例(別画面が開きます)も紹介されています。

雑草は気になるところではあるけれど、なにより「芝生は使われてナンボ」ですから、特に「公園の芝生」は、その魅力で公園に来る人が増えなければ貴重な公園管理予算を投じる意味がありません。公園緑地の考え方については、公園の「存在効果」と「利用効果」の議論があります。近年の考え方や各種施策は明らかに「利用効果>存在効果」の方向です。

そのような中、私は公園の管理経費の有効な執行を念頭に、「雑草防除にも金をかけたい、でも、公園全体の利用促進は更に重要な課題」との状況の中、「年間管理計画は、どのあたりで手を打てばよいか」について、勤務地の公園で社会実験を通じた調査を行った論文が査読を通過しました。

 ・管理経費を積み増しすれば管理品質はどうなるか?
 ・管理品質に対して芝生利用者はどのように評価するか?
 ・その評価は、利用者の行動にどのように現れるか?

です。こちらをご覧いただき、考え方としての雑草の有無の他に、貴重な予算を割いて取り組む年間管理計画をアレンジしてみてください。
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芝生の管理方法の違いが管理品質及び利用者の評価と行動に及ぼす影響に関する研究:別画面が開きます
  日本造園学会、ランドスケープ研究 79(5) 2016

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